無農薬の家庭菜園を始めて、野菜作りを楽しんでみたいけれど、マンションの庭でもできるのかな?やっぱり難しいかな?と心配に思っている方もいらっしゃることと思います。
▼今回循環畑※作りをしたマンションのお庭
※「循環畑」とは・・・
1.土地の声に耳を澄ます
2.いのちがめぐる循環を大切にする(無農薬/無化学肥料/雨水が基本)
3.発見する「楽しさ」と共にいる
4.あらゆる農法や知恵から学ぶ
実は、お野菜にとって必要な環境を整えていくことで、農薬を使わずに、肥料にもほとんど頼らずに、しかも今までの常識からは考えられないほど手間がかからずに、体が喜ぶお野菜を作ることができます。
というのは、大切なポイントを押さえることで、お野菜たちが生命力を最大限に発揮できる環境を作ってあげることが可能になるからです。
▼種まき時
▼27日後
▼39日後
▼51日後
そこで今回は、野菜の庭部を運営する弊社Natural Organizations Lab(株)にて実際にサポートさせて頂いた実例(千葉市検見川浜のマンションのお庭で初めての循環畑を始められた方(Yさん)の例)とともに、自然の恵みを活かした循環畑を作る際の重要なポイントに的を絞ってご紹介させて頂きます。
この記事では、循環畑づくりから収穫に至るまでの大まかな流れを3つのフェーズに分けて、各フェーズでのポイントを記載しております。
【フェーズ1】現地分析からテストスペースまで
【フェーズ2】天地返しから間引き収穫まで
【フェーズ3】収穫から畑の切り替えまで
この記事では、フェーズ1(現地分析からテストスペースまで)をお届け致します。
初めての方にもわかりやすく解説しておりますので、この記事を参考に、家庭菜園を楽しんで頂けましたら幸いです(^^)
<参考>
Natural Organizations Lab(株)では、企業様、個人様向けに、自然の恵みで育つ体が喜ぶ野菜をご自分で作って頂けるようになることを目指して、土作りから収穫までの「サポートプログラム」や、1DAYのワークショップを提供させて頂いております。
恵み循環農法 畑作り「サポートプログラム」「ワークショップ」
自然の恵みで育つ体が喜ぶ野菜とは、農薬や肥料に頼らず、本来持っている力を最大限発揮して育つお野菜のことです。
【フェーズ1】現地分析からテストスペースまで
ここでは以下の4点がポイントになります
1.自分のニーズを知る
2.場所について知る
3.畑の計画を立てる
4テストスペースを作って小さくテストしてみる
目次
1.自分のニーズを知る
まずは、自分のニーズ(得たいもの)を知りましょう
・どうして農薬や肥料に頼らずにお野菜を育てたいと感じているのか?
・循環畑を作ることでどうなったら嬉しいか?
・具体的にどこに循環畑をつくりたいのか?
等になります。
初回打ち合わせ(オンライン)でお聞きしたYさんのニーズは以下のような内容でした。
持続可能性の大切さを伝える活動(国連のSDGs関連)をしている中で、日常生活からも持続可能性をより高めていけたらという想いを持っています。長年、自宅マンションの庭で、持続可能性を大切にしながらお野菜作りをできたらと考えていました。
しかし、海外出張が頻繁にあるため、毎日水やりをすることができない状況であること、さらに自宅マンションは埋め立て地で東日本大震災で液状化現象が敷地内で起こったこともあり、叶わぬ夢だと思っていました。
そうした中、小さな土地でも、水やりなしで、農薬や肥料に依存せずに、持続可能性を大切にしたお野菜作りができるという話を聞いて、これなら長年の夢がかなうかもしれない、ぜひやってみたいと思いました。
2.場所について知る
循環畑にしたい場所について知り、その土地と仲良くなりましょう。
・循環畑にしたい場所はどんな気候か?(寒冷地・中間地・温暖地)
・周りではどんな作物がよく作られ、育ちがよいか?
・循環畑にしたい場所はどんな場所か?(今までの用途・歴史、風の強弱と向き、日当たり、水の流れ、生えている植物の種類、土の性質、硬盤層の有無と状態)
現地分析(現地)で分かったYさんの循環畑にされたい場所の特徴は以下のような内容でした。
・風は基本的に北西からそよそよと弱めだが、2~3ヵ月に一度大風が吹く
・日当たりは季節によるが朝~午後1時くらいまでは当たる。
・雑草は背が低いものが色々と生えている(10種類以上)。
・PHは5.5~5.8程度とやや酸性よりの状況。
・土質は地表から15㎝までは黒土のような土、15~20㎝程度掘り進めると砂地になる。
▼雑草
(キク科、イネ科、マメ科、ナス科等、背の低い様々な雑草)
▼PH
▼土の質。地表から15㎝までは黒土のようなある程度保水性ある土
▼15㎝程度掘ると砂地が出てくる
3.自分のニーズと場所の特徴の共通点を探る
1.のニーズと、2.の場所の特徴を元に、循環畑の内容を考えていきます。
・畝はどんな向きにするか
・畝は高くするか
・何を育てるか
等になります。
ここでは、現地分析で分かった風の流れ、水の流れ、日当たりを元に畝の形、方向等を決め、生えている雑草の特性、育てたいお野菜の特性、お野菜同士の相互の相性等を考慮しながら進めていきます。
現地分析で、15㎝から下は砂地になっており、水が抜けやすいことが考えられたため、畝は低めで、溝は掘らないことにしました。
また、水を沢山必要とする野菜は避けた方がよいと考えました。
さらに、スペースが限られているので、栽培に広さを必要としない野菜をまずは栽培してみることにしました。
▼風の流れ、日当たり(水の流れは不明)で畝の向き等を決める
▼Yさんのご希望のお野菜リスト
▼育ててみたいお野菜一覧を元に、今シーズンの循環畑の設計図を作成
4.テストスペースを作って小さくテストしてみる
4-1.テストスペースの目的
実際に小さなテストスペースを作って、お野菜の種を蒔いてみます。
目的は、お野菜が育つ環境かどうかや、どんなお野菜が適しているかを確かめ、それを全面的な畑作りに活かすことです。
土の状況や、土とお野菜との相性もある程度確認できます。
ここでうまく育ってくれたお野菜はこの場所に適している可能性が高いという仮説が立てられます。
必要に応じて苗づくりも同時に始めます。
計画では、5月中旬には全面を循環畑にすることを考えていたので、2月下旬にテストスペース作りと種まきを行いました。
4-2.テストスペースの作り方
4-2-1.天地返し
このテストスペースを作る際には、天地返しを行います。
天地返しとは、上の土(地表から15㎝までの土)と、下の土(15㎝から30㎝までの土)を入れ替えることです。
天地返しをする目的は、「土の構造作り」をするためです。
具体的には、地表に近い上の層の土と地表から離れた下の層の土を入れ替えます。
一般的に上の土には好気性微生物が多いです。
上下の土を入れ替えることで下の層でも好気性微生物が活性化し、野菜や植物に必要な要素のスムーズな循環が起こると考えています。
今回は、下の土の砂質度合が高かったので、砂質を緩和するための工夫(土壌改良)をしました。
土壌中の微生物の活動を活発にし、腐植を作ることで砂質を緩和することを目的に、植物性堆肥を中心にバットグアノ(腐植酸で微生物の活動を活発にしてくれる)等の有機物が入った培養土である「金の土」を、下の土と混ぜました。
底には微生物の餌となる枯れ葉・米ぬか・油かすをスターターとして入れました。
▼テストスペースの範囲を決める。上の土から掘る
▼上の土と下の土を分けておく
▼底に枯れ葉・米ぬか・油かす・くん炭を入れる
▼上の土・下の土の順で戻す。下の土の砂質の緩和のため、金の土を混ぜる
▼下の土をすべて戻して形を整える
4-2-2.様々な野菜の種を蒔く
また、テストスペースでは、様々な種類の野菜を蒔き、コンパニオンプランツで知られる「野菜同士の相互関係」を活用します。
加えて、「どのお野菜がこの土地に適しているか」についても同時にテストします。うまくいったものは小さな成功体験として、全体に応用します。
テストスペースでは、小松菜2種、レタス2種、九条ネギ、ニンジン、ホウレンソウ、春菊を蒔きました。
これらを選んだ理由としては、以下があげられます。
・アブラナ科の小松菜に虫が過剰にやってくるのを防ぐために、虫を避けてくれるレタス・ニンジン・春菊を配置。
・多様性を上げるためにホウレンソウを配置。
・病原菌を消毒してくれるネギを配置。
また、左上の奥は、キュウリなどの苗を作るためのスペースに空けています。
最後に、葉物がメインのため、虫よけに不織布(寒冷紗でもOK)もかけておきます。
▼様々なお野菜の種を蒔く。2月下旬の種まき。
▼不織布をかけておく
(今回はまだ気温の低い2月下旬の種まき。保温の目的もかねて、穴あきビニール+不織布で覆っている)
▼5月上旬の様子。ワシャワシャに。左上では、キュウリの苗作り(4/16に種まき)も同時に行っている。
4-3.テストスペースで大切なこと
ここでは、①小さな成功体験を得ること、②学びを活かして本番への準備をすることを大切にしています。
① 小さな成功体験を得る
テストスペースを作って種を蒔き、生育状況を確認します。
テストスペースでうまくいったことをしっかり観察、記録します。同時にうまくいかなかったことも記録しておきます。
② 学びを活かして本番への準備をすること
テストスペースからの学びとして以下のことがわかりました。
1:下の方に多く含まれていた砂が、天地返しによって地表に来たため保水性が悪い
2:ホウレンソウの成長が、小松菜・春菊に比べて見劣りしている
3:芽が出たものについては、根をしっかり伸ばし、成長している
それぞれについて、以下に詳しく書かせて頂きます。
1:下の方に多く含まれていた砂が、天地返しによって地表に来たため保水性が悪い
これにより、種を蒔いたものの発芽までの水が確保されず芽が出にくいということが起こりました。
そこで、天地返しのやり方を工夫し、新バージョンでテストスペースを増設することにしました。
<新バージョンの天地返し>
まず、土を3つに分けます。
❶地表から約7cm(黒土)
❷7㎝~15㎝(黒土)
❸15cm~30cm(砂土)
まず、❶、❷、❸をそれぞれ掘り出して分けておきます。
底に腐葉土・油かす・米ぬか等を入れます。
その上に❸を、金の土と混ぜながら戻します。腐葉土と金の土の有機物により、腐植が増える効果を期待しています。
その上に、❶を戻します。最後に❷を戻して完成です。
位置的には、砂質の❸はそのまま一番下に、❶と❷でスモール天地返しをしたイメージです。
❶と❷を天地返ししたのは、微生物活性に加えて、雑草の種が芽吹きにくくする目的のためです。
腐葉土・金の土は、❸と1:1の比率を目安に投入しました。
▼元の状態から新バージョンでの天地返し後の変化
▼❶❷❸を掘り出し分けておく。底に腐葉土等を入れる
▼❸+金の土、❶、❷の順で戻し、完了
これにより、地表の保水性が改善し、最初から水やりなしで種が発芽できるようになりました。
5月中旬に全体の循環畑を作る際にも、この方法を採用することにしました。
2:ホウレンソウの成長が、小松菜・春菊に比べて見劣りしている
これはpHが原因と考えられました。pHを改めて測ってみると5.8。ホウレンソウは小松菜等に比べて、中性寄りのpHを好みます。
理想の6.0~6.5に近づけるため、もみ殻くん炭を地表近くに蒔き、すき込めるところはすき込みました。
もみ殻燻炭がない場合は、草木灰(草や木を燃やした灰のこと)でも大丈夫です。
▼もみ殻燻炭(黒っぽいもの)を表面にすき込む
3:芽が出たものについては、根をしっかり伸ばし、成長している
今回は保水性が良くなかったため、発芽させるために1~2度の水やりが必要になりましたが、その後は基本的に水やりなしで大丈夫でした。
成長している野菜については、水を得るために土の下の方までしっかり根っこを張り巡らせていることが確認できました。
▼しっかり下の方まで根っこを張り巡らせることで、水やりなしでも水を確保できる
<Yさんの感想>
最初は、本当に庭で畑ができるのか、自信がありませんでした。
というのは、東日本大震災のときに、マンション敷地内で液状化現象が起こった土地だったからです。小さなスペースを作ってテストしてみましょうということで、一緒にテストスペースを作りました。
特に驚いたのは、種の蒔き方でした。小松菜や春菊等は、表面に蒔いて踏みつけるだけ。
今まで種を地中深くに埋めていたのは、種の埋葬をしていたのかもしれないと気づきました。今回のテストスペースでは最初は乾燥が続いたので中々発芽してくれず、心配していました。一回だけ水やりをして、その後しっかり芽吹いて来てくれたときは嬉しかったです。
5.テストスペースでの収穫
テストスペースの種まきをしたのが2月下旬。そこから少しずつ間引きをしはじめます。
間引きは、隣の株とぎりぎり触れる程度を目安にしていただくとよいでしょう。
ある程度株ごと間引いたら、今度は大きくなった葉っぱごとに収穫すると、お野菜の収穫を長期間楽しめます。
1m×1.9mのテストスペースで、4月中旬以降は、3~4日に1回、大きなボウルに1杯程度の収穫がありました。
無農薬なので、虫に食べられてしまう株もありますが、よく観察すると虫によく食べられている株と、そうでもない株があると思います。虫は弱い株をよく食べてくれます。弱い株は虫にあげて、あまり虫に食べられていない株を頂きましょう。
▼4/16の収穫の一部
<Yさんの感想>
テストスペースが成長してきてからは、3~4日に一度間引いて小松菜などを頂いています。
初めてでも、間引きの仕方から教えてもらったので安心できました。お野菜は無農薬のため、虫に食べられるものもあります。
最初は、すべて虫に食べれらてしまうのではないかと焦っていました。虫は弱い株を食べるとわかってからは、弱い株は虫にあげて、それ以外を人間が食べればよいと考えるようになり、ほとんど気にならなくなりました。
家族2人では食べるのが追いつかない程の収穫があります。
6.まとめ
以上が、千葉市検見川浜にお住まいのYさんの【フェーズ1】現地分析からテストスペースまでのレポートになります。
次は、【フェーズ2】天地返しから間引き収穫までについてのレポートを記載させて頂きます予定です。
マンションにお住まいの方で、循環畑作りをお考えの方の一助になりましたら大変うれしく思います。
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