安心野菜を作る肥料の使い方!家庭菜園初心者が知るべき仕組みも解説

家庭菜園を始めたいけど、自分や家族が安心して食べられるためには、一体どんな肥料を使ったらいいのか?ということでお悩みになっている方も多いのではないでしょうか?

肥料を使えば作物の成長を促進させることができますが、使い方や選び方には注意が必要です。
というのは、肥料は、使用の仕方によっては、健康に悪影響を及ぼす恐れのある成分を蓄積した野菜を育ててしまうことがあったり、気づかないうちに食中毒の原因となる菌が付着する可能性もあります。

より安心という面では、肥料を使わずに栽培する方法や、自分が納得できる素材だけを使って野菜を育てる方法もあります。そこで、今回は、家庭菜園における肥料について、取り上げました。

初心者の方にもできるだけわかりやすい言葉で書きましたので、ぜひ、この記事を読んで、肥料への理解を深めて頂き、より安心な野菜作りを楽しんで頂けだけたらと思います。

1.そもそも肥料って何?

1-1 肥料とは?

一般的に、肥料とは、植物の生育に必要な養分を与える目的で、人間が植物に施すものです 自然のままでは十分作物の育たない土、あるいは長年作物を作ったために育たなくなってきたところでは、作物に栄養を与えたり、土をよくするために、ある種の資材を土に加えたりすることが行われています。これが肥料です。
参照:「土と微生物と肥料のはたらき」山根一郎氏 農文協

1-2 肥料が効く仕組み

肥料はどうして効くのでしょうか? 植物は、根っこから必要な養分や水を吸収し、光合成をして成長していきます。 根っこから吸収している養分や、その元になるものをたくさん与えれば、当然成長が早くなり、「肥料が効く」ことになります。 人で言えば、栄養たっぷりの食事を十分にとっている状態といえます。 植物が成長するのに、窒素、リン酸、カリウムは植物が特に多量に必要とする元素とされています。 窒素は葉、リン酸は花や実、カリウムは根、それぞれの成長を促進します(肥料の三要素)。

▼肥料の三要素

植物は光合成(光、水、炭素(二酸化炭素))によって、でんぷん・糖を作り、その糖と窒素を活用して、体に必要なたんぱく質を作り出しています。リン酸は、光合成では光のエネルギーを活用するときに重要な役割を果たします。また、カリウムは、糖(炭水化物)やタンパク質を生成するのに重要な役割を果たしていると考えられています。 自然の状態では、動植物の排泄物や死骸を、土壌微生物が分解して、植物が養分として利用しています。

▼自然の状態で植物が成長する仕組み

以下の2.で後述しますが、植物が使いやすい形(アンモニア態窒素や硝酸態窒素)で養分を与えるのが化学肥料、植物が直接使える形ではなく、土壌微生物が分解する原料(動植物の排泄物や残骸に相当するもの)を与えるのが有機肥料ということになります。

2.家庭菜園の一般的な肥料にはどんなものがあるか?

2-1肥料の種類

肥料はその性質により、「化学肥料」と「有機質肥料」の2種類に分けられます。化学肥料の多くは、化学的工程によって無機質原料から作られた肥料のことです。 有機質肥料動植物由来の有機物を材料にしてつくられた肥料のことです。 化学肥料には、「単肥」と呼ばれる肥料の三要素(窒素、リン酸、カリウム)の1種類だけを含んでいるものと、三要素のうちの2種類以上を含んでいる「複合肥料」があります。 詳しい肥料の分類については以下をご覧ください。 肥料として備えるべき性質や成分を保証している「肥料取締法」では、肥料を以下のように分類しています。

「環境負荷軽減に配慮した各種作物の施肥基準」農林水産省

2-2 肥料の特徴

化学肥料では、窒素、リン酸、カリウム等の成分は、植物が直接利用しやすい形で入っており、主に水と一緒に吸収されます。微生物による分解を待たずに植物に直接作用させることができるので、一般的に、肥料の効果が出るスピードが速いのが特徴です。(例外として、効き目がゆっくり出るようにした緩効性の肥料もある)
一方、有機質肥料では、窒素、リン酸、カリウム等の成分は、植物が直接使える形では入っていません。土壌微生物によって分解された後、植物が利用できるようになります。肥料の効果が出るスピードはゆっくりですが、長く続きやすい傾向があります。

▼化学肥料と有機質肥料の効き方の違い

具体的には、以下のような種類があります。

参照:タキイ種苗株式会社HP

肥料の使い方(2-3で後述)に関わってきますが、化学肥料、有機質肥料ともに共通して、過剰に与えるといろいろな障害が出てしまいます。人と同じで腹八分目が重要です。 特に窒素は、健康に悪影響を及ぼす可能性のある硝酸態窒素※を多く含んだ作物を作ってしまう可能性があるので、安心な野菜を家庭菜園で育てたいと考えている方は使いすぎないように注意しましょう。
※硝酸態窒素を構成する硝酸イオンは、体内で還元されて亜硝酸イオンに変化すると、呼吸阻害症の原因となったり、発ガン性物質に変化する可能性があるとも一部で指摘されています。

参照:「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」 独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所
参照:「平成24年度 食料・農業・農村白書」農林水産省

また、有機質肥料の一種である堆肥※1(特に動物の排泄物によるもの)を使用する場合にも注意が必要です。 以下の研究では、完熟堆肥とみなされる堆肥製品中から、大腸菌群が高頻度(38%)で検出され、60℃以上の発酵中の堆肥からもサルモネラ菌※2が検出されています(通説では、堆肥は製造過程の発酵熱によって病原菌等が死滅すると言われています)。

参照:「種々の堆肥中における大腸菌群等の生残」越田淳一氏 森山典子氏 ごん春明氏 ほか4名

2-3で後述しますが、慣行栽培・有機栽培に限らず、動物性の堆肥を使用する場合にはその使用方法に配慮しましょう。
※1堆肥とは、わら、もみがら、樹皮、動物の排泄物等の有機物を堆積し、微生物の力で発酵させたもの。主に土壌改良の目的で用いられる。
参照:「園芸土作り通信vol.5」美里農業普及センター・JAみどり
※2サルモネラ菌…食中毒による下痢、発熱、腹痛を起こす。重症の場合は、激しい下痢によるひどい脱水のため、入院治療が必要となる場合もある。
参照:横浜市衛生研究所HP

より安心して使える肥料としては、しっかり発酵された主に植物由来の肥料がおすすめです。 ぼかし肥料といって、自分で作る方法もあります。
「保田ぼかし」神戸大学名誉教授 保田茂先生考案
(米ぬか、油かす、魚粉、有機石灰、水を使用。作るときは魚粉の骨が危ないので手袋をしましょう)

2-3肥料の使い方

肥料を使いたい場合は、使い方には注意が必要です。 化学肥料や有機肥料を使う場合は、過剰にならないように、必要な種類を必要な量を入れるようにしましょう。 必要な種類と必要な量を知るためには、手間はかかりますが、土の養分バランス土のpH(酸度)を調べてみるのがよいでしょう。

というのは、土の養分バランスを調べることで、不足している養分(窒素・リン酸・カリウム等)がわかり、投入すべき量がわかるため、過剰に肥料を入れることを避けられるからです。 人に例えると、肥満や痩せすぎの状態から、食事の種類と量を調整して、適正な状態に持っていくイメージです。

■土の養分バランスとpHの簡単な調べ方 簡易な土壌診断をしてくれる団体に土壌診断を申し込み、土を採取して送れば、診断結果が返ってきます。 以下サイトでは、土壌診断を受け付けており、どの成分が不足・過剰になっているか診断してくれます。 手間はかかりますが、都道府県ごとの施肥基準と照らし合わせることで、必要な投入量を計算できます。

「東京農大発(株)全国土の会」
(土壌診断申し込みには、入会が必要)
「全農」 
(一般の方はJA全農 全国土壌分析センターにEメールでお問合せが必要)
「株式会社 みらい蔵」(農業資材販売等)

また、市販されている土壌診断キットで、ご自分で判定する方法もあります。
農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」
以下のページの動画で使い方をご覧いただけます。
www.fujihira.co.jp/seihin/soi/midorikun.html

■肥料の施し方 肥料はいつ、どんなタイミングでどのように入れればよいのでしょうか? 肥料をいつ施すかについては、以下の2種類があります。
元肥(もとごえ)…種まきや苗の植え付けの前にあらかじめ施しておく肥料
追肥(ついひ)…元肥が足りなくなった分を追加する目的で施す肥料

また、肥料をどの場所に施すかについては、以下の2種類があります。
・全面全層施肥(ぜんめんぜんそうせひ)…畑全体に肥料を蒔いてよく耕し、表面から20㎝程度の深さまで全体に肥料を混ぜる方法
・局所施肥(きょくしょせひ)…作物の根が広がる位置に肥料を集中的に施す方法

元肥は、作物の成長の基本となる肥料なので、ゆっくりと長い間効果のある肥料が適しています。例えば、有機質肥料や、緩効性(かんこうせい=ゆっくり効く)の化学肥料がそれにあたります。
また、元肥は作物の成長のために、基本的に全面全層施肥したいところですが、株間を大きくとるナス等では、肥料を無駄にしないために局所施肥でもよいでしょう。
その場合は、植える穴を深めに掘ってその中に肥料を施して、土と混ぜ合わせてから、少し埋め戻して苗を植える方法等があります。

追肥は、施してすぐ効果が出る方がよいので、即効性の化学肥料や液肥(液体の肥料)などの肥料を使うことが多いようです。
追肥は、畝の脇に溝を掘り、肥料を施して埋め戻す方法や、株から離れたところに穴を掘り埋め戻す方法などがあります。根元ではなく、これから根が伸びる株の間や、通路などに施すのがコツです。というのも、土壌中の養分は根の先端近くから吸収されるためです。

追肥の回数とタイミングとしては、窒素については、必要な全量の半分程度を、1か月おきに1~3回が基本といわれていますが、葉の色が濃く、葉や茎がしっかりしているうちは必要ありません。安心面を考えると、なるべく窒素を減らし、植物の様子を見ながら、葉の色が色あせてきたら追肥をするくらいがよいでしょう。

参照:「土壌・肥料の基本とつくり方・使い方」加藤哲郎氏
参照:「土と肥料の作り方・使い方」東京農業大学教授 後藤逸男氏

また、堆肥(特に動物の排泄物によるもの)を使用する場合は、原則として作付け数か月前に元肥としてのみ使用し、追肥として使用しないようにすること、生食用野菜と接触しないように配慮しましょう。
参照:「種々の堆肥中における大腸菌群等の生残」越田淳一氏 森山典子氏 ごん春明氏 ほか4名

加えて、土壌のpHによっても、どの肥料を施すかを考慮する必要があります。というのは、施す肥料によって、その後の土壌のpHが変化するからです。 例えば、化学肥料の窒素肥料としてよく使われる硫安(りゅうあん)は施すと酸性になります。pHは6.0~6.5が色々な野菜が育ちやすくベストですので、もともとのpHが低い(5.5より小さい)場合は特に注意が必要です。具体的には、しばらく置いてから、石灰等のアルカリ性の資材をさらに入れてpHを6.0~6.5に調整することになります(同時にいれるとアンモニアガスが発生する場合があるので注意が必要です)。

以上は、使用方法に配慮しながら肥料を使う方法についてでしたが、なるべく肥料を使わない栽培方法もあります。3.でご説明していきます。

3. 自然農法や自然農法に似た栽培方法

家庭菜園で硝酸態窒素をより低減させることを考えると、肥料をできるだけ使わない栽培方法がより安心できるといえます。(くわしくは、「自然農法とは」の記事をご覧ください
自然農法や自然農に似た栽培方法では、肥料を使用しない、あるいは、必要に応じて自分が安心できる資材のみ(※例えば、米ぬか、油かす、腐葉土・枯草)を主に土壌改良の目的で使用している場合がほとんどです。より安心して野菜を栽培できる方法といえます。

※土壌微生物の分解によって、米ぬかはリン酸、油かすは窒素、腐葉土・枯草はカリウムに、それぞれ主になっていきます。


以下の研究では、自然栽培(自然農法に似た栽培方法の一つ)で育てられた野菜は、硝酸態窒素の含有量が、慣行栽培(化学肥料を使った栽培)の野菜よりも低いことが示されています。

参照:「自然栽培と慣行栽培野菜の化学成分の比較」 弘前大学農学生命科学部 杉山修一氏・遠嶋凪子氏

野菜の残渣や雑草を原料に、土壌微生物たちの力を活かすことで、自然に近い養分の循環サイクルを生むことを大切にした栽培方法です。家庭菜園で安心を重視したい場合には、とてもおすすめできる栽培方法といえます。

▼自然の養分の循環


自然農法や自然農法に似た栽培方法についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
「自然農法とは
「土作りから始める自然農法」

4.まとめ

家庭菜園の肥料についてのまとめです。

・肥料とは、植物の生育に必要な養分を与える目的として人間が植物に施すもの
・肥料の三要素は窒素・リン酸・カリウム。肥料は植物が空気中から得られないこれらの成分を土から補うため、植物の成長を促す
・肥料には、化学肥料と有機肥料の2種類がある。
・肥料を使って野菜を栽培する場合は、安心面から考えるとその使い方が重要
・肥料を正しく使いたい場合は、土壌診断を受けるとよい。
・肥料を使わない栽培の方法もあり、家庭菜園で安心を重視したい方にはおすすめ

以上になります(^^)
肥料についての理解を進めて頂くことで、みなさまの家庭菜園ライフがより楽しいものになりますことを心よりお祈りしております!